Chapter-3 膵臓の嚢胞性病変
腫瘍性嚢胞

膵腫瘍性嚢胞性病変には、漿液性嚢胞腺腫(SCN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)および膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などがある。これに加えて、嚢胞変性を伴う充実性腫瘍が含まれる。Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)、腺房細胞性嚢胞腫瘍や膵内分泌腫瘍には、嚢胞形成を伴うものがある。

漿液性嚢胞腫瘍
SCN:serous cystic neoplasm
漿液性嚢胞性腫瘍の構造は、蜂巣状あるいは海綿状であり、内部の小嚢胞構造や、内部エコーの粗造はこの構造を映した所見である。これをMicrocystic Typeという。
一方、超音波所見としてはこのような嚢胞構造が得られず、充実性の高エコーを呈するSolid Typeや、反対に比較的大きめの嚢胞の集簇の様に見えるMacrocystic Typeがある。
漿液性嚢胞腫瘍(1)

漿液性嚢胞腫瘍(1)


膵頭部に類円形、径33mmの膵実質よりも低エコーレベルの腫瘤がある。一見充実性の腫瘤に見えるが、後方エコーが増強しているので嚢胞性腫瘤であることを推測することができる。よく見ると内部と辺縁付近に小さな嚢胞構造が多数あることがわかり、非常に細かい嚢胞の集合体であることが読み取れる。

  • 膵臓
  • 漿液性嚢胞腫瘍
   
漿液性嚢胞腫瘍(1)  

パワードプラでの観察。漿液性嚢胞腫瘍は血流に富むものが多い。本例では、内部に血流が点状に多数表示される。

  • 腫瘍
 
漿液性嚢胞腫瘍(2)  

漿液性嚢胞腫瘍(2)


本例は膵臓とほぼ等エコーだが、後方エコーの増強があり、内部エコーが粗造で、高低エコーの成分が混在しているので病変に気づいた。漿液性嚢胞腫瘍の多くは悪性度が低いので、経過観察となることが多い。

  • 膵臓
  • 漿液性嚢胞腫瘍
 
粘液性嚢胞腫瘍
MCN:mucinous cystic neoplasm
粘液性嚢胞腫瘍中高年の女性の膵尾部に好発し、男性の発症はまれである。膵臓の外方へ突出し、厚い線維性被膜をもつ球形の多房性腫瘍。内部に隔壁や嚢胞内嚢胞の構造を有し、夏みかん様と表現される。
悪性度により粘液性嚢胞腺癌と粘液性嚢胞腺腫がある。画像所見では、内腔に突出する隆起や隔壁内の結節は悪性を示唆する所見といわれている。また径が大きいものでは悪性を疑う必要がある(良性では平均6cm、悪性では平均9cm)。
粘液性嚢胞腫瘍  

粘液性嚢胞腫瘍


55才女性。スクリーニング検査を施行したところ、脾臓を介した膵尾部の描出で、尾部の端に突出する径37mmの腫瘤を発見した。境界明瞭な類円形で、後方エコーの増強がある。

  • 膵臓
  • 粘液性嚢胞腫瘍
  • 脾臓
     
粘液性嚢胞腫瘍  

右側臥位左季肋部走査で膵尾部を浅く描出して観察した。腫瘤は辺縁に分厚い壁を有し、内部に隔壁構造が見られる。

  • 膵臓
  • 粘液性嚢胞腫瘍
 
膵管内乳頭粘液性腫瘍
IPMN:Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm
粘液性嚢胞腫瘍IPMNは高齢者に発生し、男性の方が女性よりも多い傾向がある。
膵管上皮の腫瘍で、腫瘍から産生される粘液の貯留による膵管拡張を特徴とする腫瘍である。腺癌(悪性)と腺腫(良性)があるが、その中間に相当する低悪性なものも多く分布するので、発見後の経過観察期間や手術適応などの課題が多い。
画像上は、主膵管もしくは分枝膵管の拡張した所見を呈し、主膵管型、分枝膵管型、混合型に分類されている。このうち主膵管型は、癌の頻度,浸潤度ともに高い傾向がある。粘液性嚢胞腫瘍粘液性嚢胞腫瘍
分枝型IPMN(1)  

分枝型IPMN(1)


ぶどうの房状の多房性嚢胞や主膵管拡張を伴う嚢胞の所見は、IPMNを疑う所見である。
超音波では主膵管と嚢胞性病変との交通を証明することはできないが、主膵管と接して嚢胞性病変が描出される所見から分枝膵管の拡張と推測することができる。

  • 主膵管
  • 多房性嚢胞
     
分枝型IPMN(1)  

同症例のMRCP画像である。主膵管と多房性嚢胞の位置関係把握できるのと同時に、超音波では認識できなかった尾部側の小嚢胞の分布もよくわかる。

  • 主膵管
  • 多房性嚢胞
     
分枝型IPMN(2)  

分枝型IPMN(2)


頭部の主膵管の近傍に53×20mmの多房性嚢胞があり、主膵管は4mmに拡張している。

  • 膵臓
  • 主膵管
  • 多房性嚢胞
     
分枝型IPMN(3)  

分枝型IPMN(3)


膵体部の分枝型IPMNの短軸像。多房性の嚢胞の形状がわかる。

  • 膵臓
  • 多房性嚢胞
     
     
主膵管型IPMN(2)  

主膵管型IPMN


主膵管型IPMNの所見の特徴は、明らかな閉塞所見がなく、主膵管が5mm以上に拡張する。 主膵管拡張は全体もしくは頭部の一部が紡錘状に拡張して見えることが多い。

頭部から体部にかけての主膵管の一部が、最大径15mmに拡張している。拡張の形状は紡錘状である。膵管壁の内腔側に隆起所見が読み取れる。膵管内の隆起や壁の部分的な肥厚は、悪性を示唆する所見である。

  • 主膵管
  • 隆起
     
混合型IPMN(1)  

混合型IPMN(1)


主膵管型と分枝膵管型の性質を併せ持つものを混合型という。
本例の主膵管は、最大径7mmで紡錘形である。主膵管に沿って複数個の嚢胞を認める。

  • 主膵管
  • 嚢胞性病変
     
混合型IPMN(2)  

混合型IPMN(2)


膵頭部に長径70mmの多房性嚢胞性病変を認めた。主膵管は最大径15mmで、明らかに拡張している。多房性病変の内部には、厚さ不均一な肥厚や隆起を疑う所見が読み取れる。

  • 主膵管
  • 嚢胞性病変
     
SPN
SPN:solid pseudopapillary neoplasm
若年女性に好発する膵臓の腫瘤性病変。通常は症状がなく低悪性であり、スクリーニングなどで偶然発見されることが多い。腫瘤は充実成分と嚢胞成分の混在した組織構造である。被膜を有し周囲との境界は明瞭で、内部に出血性壊死を伴うことが多い。
SPN  

SPN


40歳女性。頭部に30×25mmの類円形低エコー腫瘤を認める。粗造な内部エコーを有し、パワードプラでも内部に血流を認めることより充実性腫瘤に見えるが、後方エコーの増強がある。
本例は精査の後、膵頭部切除術を施行し、病理組織学的にSPNと診断した症例である。嚢胞変性の乏しい低悪性度のSPNであった。

  • SPN
     
SPN  
  • SPN
     
     

企画・制作:超音波検査法フォーラム
協賛:富士フイルムヘルスケア株式会社