Chapter-1 甲状腺の良性疾患
 

甲状腺機能低下症


橋本病(慢性甲状腺炎)
橋本病は非常に頻度の高い女性に多い自己免疫性疾患で、主訴は甲状腺腫大、前頸部の圧迫感や違和感が多い。甲状腺全体が硬く腫大して、触診では甲状腺の表面に小葉構造を触れるようになる。

  1. 甲状腺のびまん性腫大(峡部や錐体葉を含む)
  2. 甲状腺辺縁の不整化(粗大結節状)
  3. 内部エコーの低下、不均一化(リンパ球の浸潤を反映すると思われる局所的な低エコー領域や、線維化を反映すると思われる線状の高エコーを含む)
  4. 気管傍、気管前、内深頸リンパ節の腫大などがみられるが、その程度はさまざまである。
  5. 甲状腺機能が低下してTSHの刺激を受けている場合は、カラーおよびパワードプラ検査で甲状腺全体の血流信号が増加して認められる。
 
橋本病(腫大が目立つタイプ)  

橋本病(腫大が目立つタイプ)


橋本病の甲状腺横断像。甲状腺全体が腫大していて、特に峡部の肥厚が目立つ。甲状腺は波打っていて、内部エコーは低下している。内部のエコーレベルの低下はリンパ球の浸潤を反映すると言われている。

  • 峡部の肥厚
     
橋本病(腫大が目立たないタイプ)  

橋本病(腫大が目立たないタイプ)


橋本病の甲状腺横断像。甲状腺はさほど大きくないが、峡部は相対的にやや厚い。甲状腺の辺縁は凸凹していて、内部エコーは周囲の筋肉と同等のエコーレベルに低下している。

  • やや厚い峡部
 
橋本病(実質の不均一性が目立つタイプ)  

橋本病(実質の不均一性が目立つタイプ)


橋本病の甲状腺横断像。甲状腺は腫大し丸みを帯びていて、辺縁は凸凹している。内部エコーは低く不均一で、線維化を反映するといわれている線状高エコーが目立つ。

  • 辺縁の凹凸
 
甲状腺機能亢進症

臨床症状を有する血中の甲状腺ホルモン過剰状態を甲状腺中毒症とよぶ。この中で甲状腺ホルモン産生、分泌能が亢進してホルモン過剰をきたしたものを甲状腺機能亢進症という。

 
バセドウ病

TSHレセプターにたいして結合能をもちホルモン産生を刺激する自己抗体により甲状腺全体がホルモン産生、分泌過剰をきたした状態で、甲状腺中毒症状のほかに眼球突出などの症状を呈する。

 
その他の機能亢進症
  • TSHレセプター抗体が高値を示すバセドウ病に対して、TSHレセプター抗体が正常の甲状腺中毒症としては、機能性腺腫あるいは腺腫様結節(Plummer病)、亜急性甲状腺炎、慢性甲状腺炎に伴う一過性の破壊性甲状腺炎、甲状腺ホルモンの過剰摂取などがある。
  • 亜急性甲状腺炎、慢性甲状腺炎に伴う一過性の破壊性甲状腺炎および甲状腺ホルモンの過剰摂取ではホルモン過剰によるTSH抑制のため、甲状腺ヨード接種率が低下する。
  • 過機能結節(Plummer病)では甲状腺ヨード摂取率はバセドウ氏病と同様に高値を示し123Iaシンチグラムで甲状腺結節に一致してhot noduleが認められる。
 
バセドウ病:横断像  

バセドウ病:横断像


バセドウ病の甲状腺横断像。甲状腺の両葉が腫大している。峡部の肥厚は目立たない。内部エコーは低下している。特に辺縁部のエコーレベルの低下が目立つ。

  • 腫大
 
バセドウ病:縦断像  

バセドウ病:縦断像


バセドウ病の甲状腺右葉縦断像。側葉は非常に大きく、内部エコーは低い。線状の高エコーもみられる。辺縁の凸凹が目立たず、辺縁部のエコーレベルの低下が目立つこと以外は橋本病との区別が難しい。

  • 線状の高エコー
 
バセドウ病:ドプラ法  

バセドウ病:ドプラ法


バセドウ病の右葉縦断カラー・ドプラ像。甲状腺全体の血流信号が増加して認められる。治療がうまくいけば、甲状腺の体積と血流は減少するがエコーレベルの低下は残る場合があると言われている。

 
亜急性甲状腺炎:横断像  

亜急性甲状腺炎:横断像


亜急性甲状腺炎の甲状腺横断像。甲状腺に腫大は認めない。両側葉に不規則に低エコー域が認められる。低エコー域は通常、被検者が圧痛を訴える部位に一致している。

  • 低エコー域
 
亜急性甲状腺炎:縦断像  

亜急性甲状腺炎:縦断像


亜急性甲状腺炎の甲状腺縦断像。
甲状腺に腫大はなく、不規則に低エコー域が散在して認められる。低エコー域は時に乳頭癌と類似して見えることもあるが、日が経つにつれ移動したり消失したりすることから鑑別がつく。

  • 低エコー域
 

良性腫瘤性病変

  • 腺腫様甲状腺腫
    甲状腺内に結節が多発する過形成病変。組織学的には、結節の一部が周囲の組織への漸次移行像を示す。被膜は認められても不完全である。2p以上の結節は嚢胞性になることが多い。結節内部に出血を起こし、急に大きくなって圧痛を伴うことがある。
    超音波検査では形態が整な結節が多発してみられ、嚢胞性変化や粗大あるいは線状の石灰化像を伴う場合が多い。結節内部にコメット様エコーをしばしば認め、コロイドによるものとされている。
  • 濾胞腺腫
    組織学的には腫瘍辺縁に被膜を持ち、周辺の甲状腺組織と隔絶し、圧排性増殖を示す。原則として単発。微小浸潤型の濾胞癌とは永久標本でなければ鑑別できない。このため濾胞腺腫と濾胞癌を合わせて濾胞性病変ということがある。
    超音波検査では形態が整で楕円形か卵形に近く、腫に充実性で、嚢胞性の変化は合っても小さいことが多い。充実性部分の内部エコーは均一であることが多く、均一な幅の境界部低エコー帯を伴うことが多い。粗大あるいは線状の石灰化像を伴うことがある。
 
腺腫様甲状腺腫:多発性  

腺腫様甲状腺腫:多発性


腺腫様甲状腺腫を伴った甲状腺横断像。甲状腺は非常に大きく(特に右葉)、コンベックス型探触子を用いている。両葉に結節が多発しており、嚢胞性変化を伴うものもある。

  • 多発した結節
 
腺腫様甲状腺腫:充実性  

腺腫様甲状腺腫:充実性


腺腫様甲状腺腫を伴った甲状腺左葉縦断像。左葉中下部に楕円形の低エコー腫瘤(矢印)を認める。内部エコーは均一。組織学的検索では被膜が不完全で、腺腫様結節と診断された。超音波像からは腺腫との鑑別は難しい。

 
腺腫様甲状腺腫:嚢胞性  

腺腫様甲状腺腫:嚢胞性


腺腫様甲状腺腫を伴った甲状腺左葉縦断像。左葉中下部に楕円形の大部分が嚢胞性となった結節(矢印)を認める。嚢胞性の変化が大きな場合には、どちらかというと腺腫よりは腺腫様腺腫であること多い。

 
濾胞腺腫:充実性  

濾胞腺腫:充実性


濾胞腺腫を伴った甲状腺左葉横断像。境界部低エコー帯を有し、内部に一部小さな嚢胞性変化を伴う。円形の等エコー結節(矢印)を認める。

 
濾胞腺腫:嚢胞性  

濾胞腺腫:嚢胞性


濾胞腺腫を伴った甲状腺左葉横断像。内部に大きな嚢胞性変化を伴う楕円形の結節(矢印)を認める。組織学的検索で、濾胞腺腫であった。超音波像から腺腫様甲状腺腫と区別するのは難しい。

 

企画・制作:超音波検査法フォーラム
協賛:富士フイルムメディカル株式会社