Chapter-1 肘の超音波検査

 

肘関節の解剖(右肘)

肘関節の解剖(右肘)
肘関節の解剖(右肘)

肘関節の骨は上腕骨と橈骨および尺骨により構成されている。上腕骨は外側に上腕骨小頭(小頭)、内側に上腕骨滑車(滑車)が位置し、橈骨と尺骨が相対している。屈曲や伸展により外側の骨が収まる窪みを「窩」という。肘を屈曲すると橈骨頭は橈骨頭窩へ、鉤状突起は鉤状窩へ、伸展すると肘頭は肘頭窩に収まる。窩にはクッションの役目をする脂肪体が存在している。関節面は非常に滑らかでその上を関節軟骨が覆っている。

 
関節内と周囲靭帯を観察する
関節内の観察ポイント●軟骨と軟骨下骨の表面と海綿骨の性状
●滑膜増殖の有無
●遊離骨片の有無とその大きさと数および存在位置
●成長線の有無
  1. 伸展位による前方短軸走査
    観察部位:小頭と滑車、橈骨頭窩と鉤状窩、滑膜
  2. 伸展位による前方長軸走査
    観察部位:小頭と滑車、橈骨頭窩と鉤状窩、滑膜
  3. 最大屈曲位による後方長軸走査
    観察部位:小頭と橈骨頭、滑膜
  4. 最大屈曲位による後方短軸走査
    観察部位:小頭と滑車、肘頭窩
     
内側側副靭帯の観察ポイント●上腕骨内側上顆と尺骨鉤状突起内側の靭帯付着部
●靭帯のfibrillar patternと厚さ
●骨片の有無
90°屈曲位による内側側副靭帯長軸走査
観察部位:内側上顆と尺骨表面の靭帯付着部の骨表面像
靭帯の性状と厚さ
骨片の有無

fibrillar pattern(フィブリラパターン)
細かい高エコーの筋状エコー像で、腱や靭帯などの一方向性の線維組織の正常像である。
     
伸展位短軸アプローチ   伸展位短軸アプローチ

肘関節よりやや近位側にプローブを当て、上腕骨を中心に描出しながら遠位へスキャンすると、上腕骨が徐々に横方向に広がり高エコーの脂肪体に次いで小頭と滑車の短軸像が観察できる。

 
伸展位短軸像 右上腕骨小頭と滑車像(成人)   伸展位短軸像 右上腕骨小頭と滑車像(成人)

軟骨下骨は表面が整の高輝度エコーのラインとし描出され、それを覆う均質な無エコーが軟骨である。成人の軟骨は薄く約1mm程度である。

  • 軟骨
 
バセドウ病:横断像   伸展位長軸アプローチ

肘関節を外側から内側へゆっくりとスキャンし、小頭と橈骨頭、滑車と尺骨を観察する。進展位だけでは関節隙が描出できないためスクリーニングには不十分である。

 
伸展位長軸像:右上腕骨小頭と橈骨頭像(成人)   伸展位長軸像:右上腕骨小頭と橈骨頭像(成人)

画面左が近位側で小頭、右が遠位側で橈骨頭である。いずれも薄い関節包に包まれている。関節包の内側は滑膜で裏打ちされていて,三角の高エコー部分(矢印)を滑膜ひだという。

  • 滑膜ひだ
 
最大屈曲位上腕骨小頭 長軸アプローチ   最大屈曲位上腕骨小頭 長軸アプローチ

肘を最大屈曲し、伸展位では描出できなかった関節面を体表側へ露出することで、関節隙の小頭が観察できる。ゼリーを十分塗布して外側から肘頭までスキャンする。

 

 
最大屈曲位短軸像:右上腕骨小頭と肘頭像(小児)   最大屈曲位短軸像:右上腕骨小頭と肘頭像(小児)

画面の左側が、伸展位前方走査で関節隙に位置して観察できなかった小頭である。この走査を加えることで小頭の観察範囲が広がり、病変を見落とさず、性状と大きさを正しく評価できる。

 
最大屈曲位上腕骨小頭 短軸アプローチ   最大屈曲位上腕骨小頭 短軸アプローチ

短軸で小頭をゆっくりスキャンする。障害が存在する場合、その深さと範囲を正しく計測評価するために、長軸像だけでなく短軸像による観察が必須である。

 
最大屈曲位短軸像:右上腕骨小頭と肘頭像(小児)   最大屈曲位短軸像:右上腕骨小頭と肘頭像(小児)

短軸像では小頭関節面が内側の肘頭側に深く潜り込むように描出される。小頭障害の評価だけではなく小頭と肘頭の間に存在する骨片の検索にも必要な走査である。

 
最大屈曲位滑車 短軸アプローチ  

最大屈曲位滑車 短軸アプローチ

小頭と同様に伸展位で描出できない関節隙の滑車面の描出に有用である。観察範囲が狭いためゆっくりとスキャンする必要がある。スクリーニングにおいては長軸像の観察は不要と考える。

 
最大屈曲位短軸像:右滑車短軸像(成人)  

最大屈曲位短軸像:右滑車短軸像(成人)

滑車の軟骨下骨と軟骨を観察する。頻度は少ないが滑車の軟骨下骨障害や小さな遊離骨片の検索に必要な走査である。小児は、厚い軟骨と不整な軟骨下骨像が描出される。


企画・制作:超音波検査法フォーラム
協賛:富士フイルムメディカル株式会社